塾は十時五分前に着いた。

将来ライバルとなるであろう数名の友人に挨拶を交わし、礼二は席に向かった。

塾は学校のように決まった席はなく、どこでも自由な席に座ることができる。

彼は真ん中の列の窓際を選んだ。理由はない。

塾講師が来るまで、礼二は眼鏡を外し、澄んだ青空を眺めた。

仲間礼二は裕福な家庭の一人息子だ。

父親は大学病院の医師で、医学長を務める。母親は美大の講師。

将来は父と同じ医者になる。幼い頃から決まっていた。

親の敷いたレールを歩いている。それについて深く考えたことはない。それが当たり前だと思っているからだ。

成績は学年で常にトップ3に入る。

彼は当然の結果だと思っている。点数を取る訓練を毎日怠らないからだ。

朝、自宅で予習を二時間する。そして、塾で六時間講義を受けた後、自宅で一時間復習をこなす。

これを毎日欠かさず行なっている。

礼二にとって勉強は苦ではなかった。

教えられた学問を機械的に反復するだけなのだ。普通の学生らが、ゲームの主人公のレベルを、上げるような感覚で勉強をするのだ。

夢はない。

世間には立派な医者になることだと伝えているが、そう答えるのがベストだと、常日頃思っている。

礼二には友人はいない。

訂正。彼には友達と呼べる人間はいない。

学内でも、塾でも、全員がライバルなのだ。実力化社会に身を置く彼は、誰にも心を開くことはなかった。

いつしか両親にも心を閉ざしてしまっていた。両親は尊敬している。不満も特にない。

礼二の黒い感情を知る人物は一人もいない。

表面上の彼は、明るい好青年を演じているからだ。礼二は黒の部分を露ほども見せなかった。

故に彼は常に孤独と隣り合わせだった──