全く、いい気なもんだね。
 僕は祠の裏手の濡れ縁に座って、親子の会話を聞いていた。

 ここも、随分寂れたもんだ。
 濡れ縁も、ほとんどないもんね。

 まぁ僕には濡れ縁があろうがなかろうが、もう関係ないけどね。
 生きてないから。

 正確に言うとね、死んでるわけでもないような。
 よくわからないのさ。

 でもまぁ、皆がよく言う幽霊って、こんな感じなんだろうね。
 だって誰にも見えないし。

 今なら佐馬ノ介が、どういうものかわかるよ。
 佐馬ノ介は、僕の前に鬼の餌食になった、ここの住民だったんだ。

 鬼切を操り、鬼に立ち向かう力を秘めた一族。
 佐馬ノ介が自分で言ったように、九鬼一族とか僕の渡辺一族とかの男は、祭りで鬼が復活したら、あの村に飛ばされるんだ。
 そして鬼を退治する。

 とはいえ、人間が鬼に敵うわけないじゃん。
 多分ね、鬼と相討ちするんだと思う。
 僕は帰って来られたわけだからね。
 ただし、身体は失ったけど。

 こうなって、全部わかった。
 僕はこれで、刀守になったんだ。
 佐馬ノ介は成仏したってことかな。

 僕はこれから先、ここで鬼切と暮らすんだ。
 次の鬼が復活するまで。

 次の、刀守を捕まえるまで---



*****終わり*****