お祭りっていうと、あれだろ?
 縁日だろ?
 屋台が出て、神輿が出て。

 そんな華やかさ、微塵もありませんけど?

 しかも女の子、全然楽しそうじゃないし。
 何か必死だし。

 と思ってるとさ、女の子が振り返った。
 何かめちゃめちゃ怯えてるんだよ。
 どうしたのかと思って、女の子の視線の先を追うと……。

「!!!」

 僕は目を疑った。
 女の子を追ってきたのは、鬼だったんだ。

 追いかけっこの鬼じゃないよ。
 リアル鬼だよ。
 いや、リアルな鬼なんて知りませんけど!

 皆がよく知る、あの鬼だよ!
 角があって、牙があって。
 筋肉隆々でさ。
 それがね、女の子を追ってきたんだ。

 声も出ない僕の前で、鬼が大口を開けた。
 何かねぇ、人って、凄い恐怖シーンを見ると、全てがゆっくりと見えるんだねぇ。
 そんで、頭は妙に冷めてるんだよ。

 ビビってるんだけどね、凄い牙だなぁ、とか。
 爪もすげ〜な、とか。
 あ〜、痛そうだな、とか。

 ……て、そうだよ。
 痛そうだなぁ、と思ったわけさ。
 だって、鬼は女の子の頭を、ぱっくし食べたんだから。

 鬼が女の子の身体を鷲掴みにして、頭にかぶり付いてさ。
 んで、思いっきり頭を反らせたんだ。
 ぶちぶちって、聞いたこともないような音がしてさ、血が、ぶしゃーって。

 それを見て、初めて僕は自然とその場に座ったんだ。
 すとん、とね。
 腰が抜けたのさ。

 ついでに気も失ったみたい。
 気が付いたら、部屋の天井が見えてさ。
 佐馬ノ介が覗き込んでた。