怖いもの知らずだった俺が生まれて初めてビビッたのは、引越しのスーツケースを運んでいた時に、アパートでたむろっていたギャングの連中に囲まれた時だった。 

韓国系ハーフのShown はテコンドー黒帯、中国系ハーフの Tony はカリフォルニアで5本の指に入るほどのカンフーの使い手・・・だが、10人近くいた奴らの腰には拳銃が光って見え、俺らは氷ついてけない。 

『殺られた』と思った。 

何を血迷ったのか俺はそいつらの前で『じゃ~んけ~んポーン!』と大笑い、しまいには調子に乗って踊り出す。 『アジア人がHIPHOP?!』・・・よほど衝撃が大きかったのか、奴らは唖然とする。 そして誰かが Boonbox (ラジカセ)を持ってきてボリューム最大でラップを流し、皆で笑いながら踊り出す。 究極の命拾い・・・人間死を覚悟すると、とんでもない行動に出るものだ。 

黒人の奴らとも仲良くなり、黒人独特のスラングを覚え、俺の英語力はそこから一気に飛躍する。 普通の留学生が勉強する『楽しい英会話』から、ナメられない様に生き抜く為の『サバイバル・イングリッシュ』を覚え、気が付いたら奴らと討論出来るレベルまで伸びていた。 

肩まであったサラサラ茶髪を束ね、横と後ろを刈り上げてラインを入れ、バンダナを巻き、ダブダブのジーンズを腰で履く。 そして腰には拳銃。 勘違いしないで欲しいのだが、決してカッコ付ける為ではない。 仲が良い黒人の連れ達がいても、所詮奴らはギャング。 この街に住んでいたらいつどんな事件に巻き込まれるか分からない、自分の命は自分で守らなければいけなかったからだ。 逆に持っていない人間の方が珍しかったぐらいだ。

外国人がアメリカの大学へ入る為には TOEFLやTOEICなどの英語試験である程度の得点を取得しなければならない。 決して自分を見失う事なく、勉強だけは常に必死にしてた。

そして悲劇が起こる。