実は、俺はこの井伏という男と初対面ではない。


お互い常連なので、何度か顔を見合わせるうちに知り合いになった。

(俺からは絶、対に話しかけないけど)。



望乃はこの男を本気で怖がっており、いつもこの男が来ると急いで料理をかきこんで、店を出たがる。


輪は望乃をとても可愛がっているので、いつも家まで送るために一緒に店を出るから、

俺が井伏につかまると、薄情なあいつらは俺を取り残してさっさと帰ってしまうのだ。



あ〜……

望乃がシマリスやハムスターみたいに料理を慌てて口に入れ始めたぞ。

今日もそのパターンになるんだろうか。

はぁ、最悪だよ。



「ごちそうさまでした!」


望乃と輪がさっさと店を出るとすぐに、井伏の前にさば味噌定食が置かれた。


鈴が慌てて音を鳴らした。