やはりホラーだ。ちょっとなめてた。
日本のホラーは世界一だとか何とかって前テレビでやってたな。
したたる水の音や、微妙な間、そして不気味な効果音。
俺はさりげなくビビりながらも、まぁまぁその映画に入り込んでいた。
血のたれる音。骨が折れる音。
長すぎる沈黙。いきなりの叫び声。
緊張はどんどん高まる。
もうすでに三人が首をはねられたり、溺死したり…と謎の死を遂げている。
そして主人公の肩に、後ろから誰かの手が置かれた時だった。
いきなり腕をぎゅっと掴まれた。
びっくりした。
映画に集中しすぎて、隣にいる望乃の存在を忘れてた。
望乃は小さくなって、眉をしかめている。
俺は小声で様子を伺う。
「…どした?」
「……」
顔が青いか?暗くてよく見えない。
望乃は今までにも貧血を起こすことが度々あった。
俺は少し心配になって、顔を覗きこむ。
「具合悪い?」
「……」
望乃が首を何度も横に振る。
「何?」
「……」
「ん?」
「……もうやだ。怖い……っ。もう、出る……!」
「えぇっ?」
俺が思わず大きい声を出すと、ぎろっと周りの人たちが睨んできた。
俺は「すいません…」と頭を下げた。
望乃の手は震えていて、今にも泣きそうな顔だ。
そんな間にもスクリーンにはおぞましい映像が飛び出し、そのたびに望乃は体を跳ねさせた。
結局、俺は望乃を連れて、途中で映画を出ることになってしまった。