「映画の試写会チケットもらったの。一緒に行こう」


その手にはチケットが二枚。

映画は、今話題になっているホラー映画だった。


「……」

「予定あんの?」

「いやぁ、別にそうじゃないけど…」


CMで何回か特報を観た事がある。

何か最近、人気沸騰中の新人俳優が主人公だったっけ。


こうしてタダ券を手にしても、別にたいして観たいと思わない映画。


ホラーは苦手じゃないけど、でも好きでもなくて、ちゃんと映画館で観た事は一度もなかった。

そもそも俺は映画はDVD派だし。

家で寝転がりながら見たいタイプだし。


興味のない映画を2時間も3時間も座って観なくちゃいけないのは、正直乗り気がしない。

が、

今この状況、ただ断るのもどうだろうか、俺。


「あ、そうだ。輪と行けばいいじゃん」


面倒くさそうな顔をした俺を、望乃は見逃さなかった。

ムッとした顔で俺を見る。


輪なら喜んで付き合うはずだ、と思ったのだが、望乃は目を少し伏せてこう言った。


「輪ちゃんじゃ……だめなの」


俺はまた首を傾げる。

輪じゃだめな理由?


望乃はよく輪を連れて、雑貨屋だカフェだ、って行ってるのに。


すぐに思い浮かんだ。

そっか、輪はホラーが苦手なのか。


俺は、はぁんと一人で頷き後ろ頭をかいた。


あーあ、この望乃の目。

キラキラさせて、俺の返事を待っている。

ここで断ったら、またこの前の繰り返しだし、仕方ないか。


「はぁ、分かった。土曜な」

「うん!」

「じゃチケット」

手を差し出すと、

「だめ。健吾なくすもん」

「……」


望乃は嬉しそうに頷き、チケットを鞄にしまいこんだ。

そして、「2時ね!遅れないでよ」と言って笑い、女友達の元へと駆けていった。



俺はその姿を見送ってすぐに、子丑寅の次は“卯”だという事を思い出した。