入ってきたのは、長身で、サングラスをかけ、赤いアロハシャツに金色のネックレスをつけている明らかにあっち系の三十代後半くらいの男。


「あら、井伏さん。いらっしゃい」


ゆかりさんが笑いかけると、他の席も空いているのに、わざわざ俺らの隣に来て、鞄を勢いよく机に置いた。

思わず背筋が伸びる。


男はサングラスを取り、やたら白い歯を見せて笑い、

「さば味噌定食と生ビール」と注文した。



ゆかりさんはにっこりと笑い、「はいよ」とキッチンへ一度消え、

「あ」と、すぐにまた黄色いのれんからひょこっと顔を出した。



「井伏さん、今日、車は?く、る、ま」

「ああ、今日は迎えだよ」

「ほんとにですね?飲酒運転は絶対しちゃだめですよ。この前みたいに乗ろうとしたら、もう家では一っ切お酒出しませんからね!」

「はい、はい」



すげぇ……。

この風貌の男に、上から目線で話せるゆかりさんはやっぱり大物だ、と思う。


井伏は、ふうと一息ついてから俺に声をかけてきた。


「よーう、少年」

「どうも……」