「あの時、俺、これをつけてました。井伏さんに預かったんです。これをつけてればきっと会えるからって。アイツは、鼻が利く女だから”って」


由紀子さんの口が徐々にへの字に曲がるのが分かった。

そして俯いて、小さく笑った。


「私は犬かっつの……」


じわじわ目に溜まった涙をこぼさないように、由紀子さんは顔をあげた。

ずっと鼻をすすると、同時にじわじわ赤くなる。


そんな顔を見て、また胸がちくちくした。


ナントカ星人が少し応答した気がした。

きっとそいつらの正体は―…。


俺はぎゅっと拳を握り締めて、こう言った。


「あの、俺でよかったら、いつでも話ききます」


由紀子さんは今にも崩れそうな笑顔を作って

「ありがとう」と言った。



社交辞令に聞こえたかもしれない。

でも本当は――うん。


この気持ちが何なのか俺にもよく分かんないけど、とにかく、ほっとけなかったんだ。

彼女には、泣いて欲しくない、そう思った。



何か力になってあげたい。

お節介だと思うけど、でも、そう思ったんだ。




目の前のコバルトブルーの小さな海は、俺たちの手に取られる度に、ゆらゆらと揺れていた。