「わっ」


由紀子さんだ。

俺は引っ張られて、くんくん匂いを嗅がれている。


「な、何してんすか…?」


か、顔が近い……。

心拍数がぐぐっとあがったのが分かった。



「健吾くんっていつも香水つけてる?」


――あ。

俺はすぐにピンッときた。


「つけてないです。あ、ちょっと待ってて」


俺が鞄を探り出すと、由紀子さんは自分の席について、紅茶にミルクを入れてかきまぜながら、きょとんとした。


鞄から出したのは、井伏の香水。

コバルトブルーの土星。


俺がそれを見せると、由紀子さんはかたまった。