「由紀子さんは……どこで井伏さんに知り合ったんですか?」
彼女は驚きも怒りもしないで顎に手をやって思い出し始めた。
「うちの雑誌で井伏さんの写真集の特集をやる事になった時があってね。って言っても、見開き1ページだけなんだけど…。その関係でうちの会社に井伏が来てて、私、エレベーターに偶然一緒に乗り合わせたんだよね。その時に初めて喋った。そこで話が合って、井伏さんに連絡先聞かれたの。
それで何回か会う内にって感じかな」
「へえ」
よくあるありふれたドラマのような出会いだなと思った。
でも意外と、ありそうでないパターンというか。
その状況が絵に描いたように頭に思い浮かんだ。
「私ちょっと、ドリンクバー行ってくるね」
「あ、はい」
カップを持ち、席を立つ由紀子さん。
俺はしばらくその姿を目で追った。
か細い背中。
長い髪はやっぱりシンプルに一つに結われている。
――やっぱり、まだ好きなんだろうなぁ。