あまり目立つお店ではないけど、とにかく安くてうまい!と密かに評判を呼んでいる、アットホームな小さなお店で、客のほとんどが常連だ。


ふくよかな体型に、気さくな性格

真っ赤なエプロンと黄色いバンダナがトレードマークの

まるでお母さんのようなゆかりさんのキャラクターがさらに人気を呼んでいるのだろう。


裏で料理を作っている、威張ってそうで、実はゆかりさんに尻にしかれている旦那さんもいい味を出している。



もちろん俺ら三人も常連なので、

ゆかりさん達とは仲よくさせてもらっているわけだ。



「あらぁ、結局負けたのは、健ちゃん?」

「結局って何すか、結局って……」


ゆかりさんが、ぶふっとお茶目に笑って、「やったわね、望乃ちゃん!」と、望乃にからあげ定食を手渡した。

気づいたら、なぜかから揚げにはお子様ランチ用の国旗の楊枝が刺さっていた。



望乃は「まぁね」と誇らしげに笑い、それを受け取った。



「それにしても健吾さぁ、いつもいつも寝てて、何しに大学行ってんの?」

望乃がから揚げに檸檬を絞りながら、説教風に言う。



「若い内はやたら眠くなるもんなんだよ、って何かテレビで専門家が言ってた」

「あ、言いワケ?…うわっ檸檬の汁、目に飛んだぁ〜!」

「あーほら、ティッシュ」


俺と望乃がじゃれ合い、輪が横で笑っている。

大体いつも、こんな感じ。


何事もバランス。

うむ、バランス。


そうやって話していると、店のドアが開いた。

小さな鈴が鳴る。


「いらっしゃいませー」


――げっ。

俺はその人物を見て、思わず視線をそむけた。