“鯨見たことないんだな。尾ひれ見たことないんだよ”
やっとあの意味深な言葉の意味が分かった。
俺をオブジェの裏側に回させるためかよ。
何だよ。
ほくろと匂いだけで何とかしようとしてた俺が馬鹿みたいじゃねーか!
まったく大人はいちいち回りくどすぎるんだよ。
こうなったら、気になること全部問い詰めてやろうと思った。
色々協力したんだし、それくらい知る権利はあるはず。
「あともう一つ聞きたいんですけど」
「ん、何?」
「茶封筒の中身って何だったんですか?」
きょとんとした彼女の顔。
そして、目を輝かせて言った。
「中身、覗かなかったんだ?こんなちゃっちい、糊付けもしてない茶封筒」
「あ、はい。
一応人に預かった物だし、すげぇ気になってたけど、俺が勝手に中を見るのはどうかなぁって。
でも…本当は、単純に井伏さんが恐かったってのもありますけど…」
すると急に由紀子さんが笑い出した。
「え?」
俺は目をぱちくり。
「君、今どきめずらしい少年だね」
ほ、褒められたのか?
俺は「はぁ、どうも」と言うしかない。
由紀子さんはそんな俺を見てさらに笑い
「あーおかしい」と腹を抱えた。
そして「よしっ」と立ち上がって伝票を持った。