俺は思わず由紀子さんの顔色を伺った。
「あの、すいません、俺…」
由紀子さんは、すぐに微笑んだ。
そして、「いいのよ」と言ってから、話をしてくれた。
「まずはあれね。私たちの関係だね。
井伏さんとは、一年前から付き合ってた。すごく好きだった。彼は、私の世界を広げてくれる人だったの」
寂しげに微笑んで語る唇が、コーヒーカップにそっと触れる。
「だけど、ちょうど一週間前。急に連絡が途絶えちゃって。こっちからかけても、もう井伏さんの電話番号は使われていなかったんだよね。
あたしとの関係は、遊びだったのかなぁとか考えて、それで飲めないお酒飲んで、人に迷惑かけて、今その人の前で愚痴をはいてる。
しょうもないねぇ、あたし」
「そんな…」
「でもまっ、よくよく考えれば限界だったのかもね、あたしたち」
「でも、一年も付き合ってたんですよね」
「若いなぁ。一年なんて、あっという間だよ。一年なんて、一日みたいに早いんだから」
由紀子さんはそう言って笑ったけど、俺は笑えなかった。