部屋に着くまでには、由紀子さんは爆睡していた。
気持ち良さそうに寝息を立て、深い眠りの中だ。
信じられん。
どういう神経してんだ。
見ず知らずの男の部屋で。
「ほっ」
俺はやっとの事で鍵を取り出し、ドアを開け、由紀子さんをベッドに寝かせた。
「はぁ…」
あぁ、俺、何してんだろ?
やっぱりあの時、大人しく帰っとけばよかった。
俺は由紀子さんに突き飛ばされた時に擦りむいた右腕をさすりながら、深いため息を漏らした。
酔っ払いの女を介抱、そして自分のアパートへ。
まるで『ローマの休日』だ。
さすがに王女ではないだろうけど、得体の知れない女という点では共通している。
とんだ事に巻き込まれた、と思った。
すべては井伏のせいだ。
これで千円?冗談じゃない。
百万もらっても引き受けるべきじゃなかった。
明日の朝、目が覚めたら、この部屋で修羅場が繰り広げられるかもしれない。
そう思うと気がズシンと重くなった。
とりあえず、寝よう。
今日は疲れた。