立ち上がって歩き出そうとしては、ふらふらと頼りない足取り。
壁にぶつかりそうになったり、倒れそうになったりする、危なっかしい由紀子さんを見ていられなくて、
俺は悩んだ末、戻って、彼女の前で右ひざを立ててしゃがみ込んだ。
おぶると、びっくりするほど軽かった。
「軽っ、ちゃんと飯、食ってます?」
「んー…」
「送ります。家、近いですか?どこらへん?」
「んー…」
「あ、タクシー呼びましょうか」
また、「んー」と同じ返事が返ってくると思ったら、体が急にぐんっと後ろに引っ張られた。
何かと思ったら、由紀子さんが思い切り後ろに体重をかけたのだ。
「よぅし!あんた付き合いなさい。今日はじゃんっじゃん、飲もぉ!」
「酔っ払いが何言ってんすか!そうじゃなくて、家……」
「うふふ、可愛いね、キミ」
ぎゅっと抱きつかれて、頭に顔をすりすりされた。
「たく…あっ、ていうか、よだれ!」
どうやら、おとなしくなったのは、一時的なものだったらしい。
完全に壊れてる。
女の酔っ払いは見苦しいぞ、
「とにかく…もう帰って寝た方がいいですよ。家どこですか?」
「井伏の…井伏の、ばかやろぉ!」
「危ないっ!」
「象に踏み潰されて、ライオンに追いかけられて、鯨に食べられて死んじゃえ!」
彼女は意味不明な事を口走り、じたばたと子供みたいに暴れた。
酔っ払いに何を言ってもだめだ。
まるで会話が成立しない。
成す術がなく、困り果てた俺は、仕方なく自分のアパートに連れて行く事にした。