俺は一息ついて、改めて彼女を見た。


色白で華奢。

後ろでシンプルに一つに結った、ほんのり茶色い髪。

それと、確かに目の下にほくろがある。

スーツ着てるし、歳は多分、俺よりも上。



どうしたものかと思って、とりあえず自分もしゃがみ込み視線の高さを合わせてみた。

しかしすぐに俺は彼女の目が空ろなのに気づいた。

そしてすぐに「うっ」と鼻をつまんだ。


「酒くさっ!」

「……あんた、井伏さんをどこへやったの?」

「は?」

「井伏ひゃん、私を置いてどこ行っちゃったのぉ!!」

「ばっ、声大きい!」


帰り途中のサラリーマンや、予備校帰りの学生など、周りの人がじろじろと不思議そうな目でこっちを見ている。


「何かすごいね」と笑う声も小さく聞こえた気がした。

俺は恥ずかしくなって、挙動不審に辺りをキョロキョロ見回した。



俺は由紀子さんに落ち着くように言い、ポケットから例のものを取り出して手渡した。

すると何かを与えられて急に泣きやむ赤ん坊のように、由紀子さんは静かになった。


「これね、井伏さんが、あなたに渡して欲しいって」


やっと渡せた。

何だか現実のこととは思えない。


由紀子さんは鼻をすすって、茶封筒を覗き込む。