――やっぱり、無謀すぎんだろ、これ。


 翌日の午後六時、俺は井伏との約束通り、駅前の鯨のオブジェの前にやってきていた。


ここは渋谷で言う、忠犬ハチ公みたいな待ち合わせスポットだ。

こんな人だかりの中から、まだ顔も見た事もない人を探し出すなんて、限りなく不可能に近い。


時計を苛立ちながら、しつこいくらいに見ては逸らし見ては逸らす人がいたり。

携帯を耳に当てながら、辺りを見渡している人。



こんな場所。


知ってる顔と待ち合わすのだって簡単ではないのに、


相手の携帯番号も知らない、

相手の顔も分からない。


………こんなんで、俺にどうすれと?


ちらちらと周りにいる女性を観察してはみるが、まったく分からない。


唯一の手がかりが、「目の下にほくろ」。

正直、手がかりにもヒントにも何にもなってない。


つーか、なんだよ、ほくろって。

意味わかんねぇ。

つーか、ほくろがある人なんて沢山いるし!

そもそも暗くて見えねぇし!


俺は肩を落としつつ、右手に握り締めたくしゃくしゃの茶封筒に目をやった。


中身は何だろう?

依頼人は井伏だから、並大抵の物じゃないんだろう…という予想。



まぁ普通に金と考えるのが妥当だろうな。

やっぱ、高額の小切手とか、手切れ金とか……とか?

うーん、でもそれにしては、触った感触が薄っぺらすぎる。



ぬあ~!

気、に、な、る!!


目を細めて中身を覗こうとしては、井伏の鬼の形相を想像して首を横に振った。


もしもこれを渡せなかったら……

井伏、怒るだろうなぁ。