エリザベスがちらりと目を走らせれば、すぐそこにパーカーがいた。歩き始めるエリザベスに、無言のまま従ってくれる。
 腕に覚えがあって、ヴェイリーはエリザベスにとっての危険人物ではないとわかっていても、パーカーの存在は心強かった。
 そう思っていることは、絶対知られてはいけないと自分に言い聞かせているけれど。

 使用人に案内されて長い廊下を歩き、ヴェイリーの書斎へと招き入れられる。
「楽しく過ごされたようですな」
 頬を紅潮させたエリザベスを見て、ヴェイリーは目を細めた。まるで娘を見るようなまなざしで。
「おかげさまで。とても楽しかったわ! このお屋敷にはいろいろな人が出入りしているのね」

「大半が妻の交友関係でね。ここなら、話がもれる心配はない。あの劇場はその点不安でね。さて、レディ・エ――」
「リズ」
 エリザベスは、ヴェイリーの言葉を途中で遮った。

「リズと呼んで。お友達にはそう呼んでもらっているの――あなたは信用してもいいと思う」
 これで三人目だ。
「では、レディ・リズ」
 言い直して、ヴェイリーはエリザベスとパーカーの二人を並んでソファに腰かけさせた。

「犯罪組織とつながりがあるかもしれない私の屋敷への招待を受け入れた理由は? 場合によってはお力になれるかもしれない――あなたはずいぶん気持ちのいい人だ。懐かしい大陸のにおいがするというだけではなく」
「私もあなたが好きよ。いろいろ後ろ暗いところはありそうなのも否定しないけれど、今そこを追及してもしかたがないものね」
 エリザベスは率直な口調で言ってのけると、ソファから半ば身を乗り出すようにした。