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「あのとき―…」


彼が復唱するのを、なんとなく見つめる。
すると彼はこちらを向いて、


「…どれの話?」


可愛らしく(見えないけども)首を傾げてそう言った。


「…。」


彼には思い当たることがたくさんあるらしい。


「あれだよ。『もう修ちゃんて呼ぶな』ってやつ」


あたしは面倒くさくなって、かなり投げやりに言った。
すると、


「…あぁ、あれか。あれは―……」


思い出したようにこちらをまた向いたかと思ったら、今度はあたしを見たまま固まった。


「修ちゃん?」


昔の呼び方で呼んでみる。
少しだけ近づいてみると、


「―っ!」


彼は少し後退りながら、顔を真っ赤にした。
…いったいなに。


「あ、あれは…別に気にすることじゃないだろ」


「気にすることだから聞いてるんでしょ。
ほら、なんで?」


どもりながら言う彼に畳み掛けるように問う。


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