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たったその一言に、あたしの足は進むのをやめた。
懇願されているようで、動けなくなってしまった。


「なに?」


努めて明るく返す。
後ろを振り向くことはできなくて。


「…」


「…?」


黙ってしまった彼を少し不思議に思い、ちらりと後ろに目をやる。



「っ!」



すぐに彼に背を向ける。
後ろを振り向いたことを、酷く後悔した。

真っ直ぐ彼は、ただこちらを向いていた。
ただ真っ直ぐ、あたしを見ていたのだ。


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