イヤホンを取り返そうと腕を伸ばすと、真宏がひらりと簡単にそれをかわした。
その反動で、もう片方のイヤホンも耳からするりと落ちる。
音楽で密閉されていた私の世界が、車道を走る車の音や人の声。
そう言った辺りの騒音に侵食されていく。
「あのなぁ、俺は今日がカオルさんの家からの初登校なんだよ。道ぐらいちゃんと案内しろよ!」
私はエラそうな口調で見下ろしてくる真宏を睨んだ。
本当にうざい。
あの女の親戚というだけで関わりを持ちたくない条件を十分に満たしているのに、同じ高校だなんてありえない。
一緒に登校するつもりなんて全くなかった。
それなのに、玄関を出た私をすぐに追いかけてきた真宏は、家から駅までの道のりも、電車の中でも無視し続ける私にしつこく話しかけてくる。
「案内人の役目なら、もう十分果たしたでしょ?学校はもうすぐそこに見えてる」
私は苛立った声でそう言うと、数十メートル先に見える薄茶色の校舎を指差した。