「奏葉(ソワ)。月島 奏葉(ツキシマ ソワ)」
俺を睨んだまま、怒ったような声で彼女が言った。
「そ、わ?」
聞きなれないその音の響きを口の中で反復する。
そんな俺を見て、彼女は小さくため息をついた。
「奏でるに葉っぱの葉で、奏葉」
彼女に言われ、俺はようやく彼女の名前を理解する。
「あぁ、そわ!」
思わず手を打ちながら大きな声を出す俺を見て、彼女が眉をしかめる。
「初夏にそよぐ風が葉っぱを揺らす音が好きだからだって」
彼女は俺から顔を背けると、小さな声でささやくように続けた。
「ママがつけてくれた名前」
その声がさっきまでの彼女の様子と違ってあまりに弱々しいから、俺ははっとして彼女の横顔を見た。
公園の街灯が彼女の横顔を照らす。
その横顔は、今まで見た誰のものよりも哀しくて淋しそうだった。