「奏葉(ソワ)ちゃん。お弁当作ったの。持って行って?」

                  
家を出て行こうとする私の背中をあの女が呼びとめようとする。

無視して出かけようとすると、父の怒鳴り声が後ろから飛んできた。

私はため息をつくと、仕方なく彼女を振り返る。


「いらないって、いつも言ってるでしょ?母親でもないのに、余計なことしないで」

私の言葉に彼女の顔が泣き出しそうに歪んだ。

 
「奏葉!」

彼女を気遣い、私に飛んでくる父の怒鳴り声。

 
「祐吾さん、いいの。私が勝手なことしたから……」

  
あの女の、父をなだめる声が聞こえる。


どうして――?

       
気遣うのはあの女のことばかり。

気遣いの言葉がほしいのはあの女だけじゃない。

      
私は父とあの女の声を断ち切るように、思い切り大きな音を立てて玄関の扉を閉めた。