「そうなんだ……」
春陽の言葉に、俺は小さな声で答える。
カオルさんの相手が再婚だとは聞いていたが、前の奥さんが亡くなっていたとは知らなかった。
それを聞くと、春陽に対して何となく気が引けてしまう。
「あ、でも。あたしは今のおかあさんのことちゃんとお母さんだと思ってるの。すごく優しいし、あたしのこといつも親身になって考えてくれるし。あたしが小さいとき、ママはもう病気がちだったから、お母さんとして触れ合える機会って少なくて…だから、お母さんがいるのってこういう感じなんだってことを、あたしは今のおかあさんにたくさん教えてもらったんだ」
俺のそんな気持ちに気付いたのか、春陽が明るい声を出す。
「でもお姉ちゃんはすごくママっ子だったというか……ママのことがすごくすごく好きだったから、どうしてもおかあさんのこと認めたくないみたい。それから、おかあさんと再婚したパパのことも」
春陽の話を聞きながら、俺はあの女が寝転がっていたベッドに視線を向けた。
『ママの部屋だ』
強い口調で言っていたあの女の声が甦る。