「真宏くん、しばらくの間奏葉をお願いしてもいいかな?」

父にそう問われた真宏は戸惑ったように私を見たあと、緊張した面持ちで頷いた。


「でも、私……」

想定外の状況に戸惑っていると、春陽が近づいて来て私に耳打ちする。


「お姉ちゃんさ、本当はまぁ君のこと好きでしょ?初めからそう言ってくれたら、あたしだって意地にならなかったんだからね」

「は?」

春陽の言葉に、頬がかっと熱くなる。

振り向いて反論しようとしたとき、にやりと悪戯っぽく笑った春陽が肘で私の背中を思いきり前へと押した。


「じゃぁお姉ちゃん、あとでねー」


突き飛ばされるようにしてよろけた私の手が真宏の手に捕まってぎゅっと握りしめられる。


「そわ。行くぞ」

真宏は私の目も見ずにそう言うと、私の手を引いてゆっくりと病院の庭の方へ歩き出した。

躊躇いがちに繋がれた手を軽く握り返すと、真宏が私より強くその手を握り返してくる。


握り返された小さなその力が、私の胸の奥をきゅっと強く締め付けた。