真宏を見つめて立ち尽くしていると、やっと私たちの存在に気づいた彼が椅子から立ち上がってこちらに近づいてきた。
真っ直ぐに私たちを見つめて歩いてくる真宏の姿に、妙に緊張する。
彼との距離が縮まるごとになぜかドキドキと高鳴る鼓動を抑えていると、春陽が私に近寄ってきて耳元にささやいた。
「まぁ君、家族の邪魔したくないから来ないって言ってたのにやっぱり学校休んで来たんだ。なんだかんだでお姉ちゃんのこと心配だったんだね」
「え?」
春陽のほうを振り向いたとき、目の前までやって来た真宏が私の顔をちらりと見た。
ただ少し見られただけなのに、私の心臓がドクンと大きく跳ね上がる。
真宏の顔を見つめ返して何か言おうと唇を僅かに震わせると、彼がすっと私から視線をそらした。
それから、私ではなく父に笑顔を見せて軽く頭をさげる。
「退院おめでとうございます」
真宏がそう言った瞬間、胸がチクリと痛んだ。
彼が一番に声を掛けたのが私でなかったことに、自分でも驚くほどがっかりする。