「趣味悪い」
私はつぶやくと、小さく笑った。
「奏葉?お前何言ってる?」
ますます怪訝そうな顔をする父に、私は鼻で笑ってみせた。
「何も。その女の親戚の前でいいカッコしたいパパの気持ちもわかるけど、私はその女の顔を見て夕飯食べるなんてお断りなの」
そう言うと、父は私の手を掴んでいるのとは反対側の手を高く振り上げた。
「奏葉!お前……」
私はそんな父の顔を冷めた目で見上げた。
「殴れば。どうせママも見てないし」
私の言葉に、父が苦々しい顔をして歯を噛み締める。
そして、振り上げた手を静かに元に戻した。
「私がいないほうが楽しい夕飯が食べれるでしょ?別にいいじゃない、いつも一緒に食べてないんだし」
私はそう言うと、父に掴まれたままの手を振り払った。
手を振り払われた父が、ほんの一瞬だけ淋しそうな顔をする。
私はそれに気付かないフリをして顔を背けると、玄関を飛び出した。