あぁ――……

今朝もあの女(ヒト)の声が私の一日を台無しにする。


私はスマホを弄ってその音楽再生音量を最大にすると、その声が聞こえないようにイヤホンを耳に押し込んだ。



「……!」
             
玄関を出ようとする私の肩をあの女がたたき、何事かを告げようとする。

私には彼女が口をパクパクとさせるのが見えるだけ。

そこに流れるBGMは、ジャカジャカと派手にドラム音が響く海外バンドの曲だ。


何も聞こえないのに必死になっている彼女があまりに滑稽で、私は鼻で笑った。


彼女の目が、本当に少しだけ傷ついたように揺れる。


そのまま通りすぎようとする私の肩を強い力が引き戻し、片方の耳からイヤホンが無理やり剥ぎ取られた。

    
「おい、奏葉(ソワ)!母親に対してその態度は何だ!?」


イヤホンが外れた私の耳に、聞きたくもないもう一つの声が入ってくる。


母親……?
  
この女(ヒト)は私の母なんかじゃない。


私は朝から声を震わして娘を怒鳴りつけてくる父親を見上げた。