その男を睨みつけてやると、彼は春陽を後ろに追いやって私の前に立ちはだかった。
怪訝そうに男を見上げる私を見て、彼が薄い唇の片方を高くつりあげて笑う。
それから、二重の切れ長の目で私をバカにするように見下ろしながら言った。
「お前か。カオルさん、悲しませてるヤツ」
カオルさんを悲しませてる?
何それ?
「くっ……」
堪らず、彼に向かって小さな笑い声を漏らしてしまう。
「は?何だよ!?」
突然笑い出した私に、男はひどく気分を害したようだった。
肩をいからせながら、私を睨みつけてくる。
「あんたがふざけたこと言うから」
私は男を見上げると、口角を上げ薄く笑う。
「は?」
私はまだ何か言いたげな男を一瞥すると、立ち上がって部屋の入り口へと向かった。
「お姉ちゃん!」
私と男のやり取りを見ていた春陽が、立ち去ろうとする私の腕をつかんで引き止める。
春陽のその手をそっと引き剥がすと、私は彼女と男を振り返った。
「あんたもあの女も、いつか追い出すから」
何の根拠もない。
でも、いつか実現させたいというその想いだけを込めてそうつぶやく。
「お姉ちゃんっ!」
困った顔で眉を寄せる春陽の後ろで、男は顔を引きつらせていた。