「ちょっと……」

手をつかまれた奏葉が、眉をしかめて迷惑そうな顔をする。

そんな彼女を見て、つくづく勝手な女だと思った。


結局奏葉は、いつだって自分のことしか考えていない。


「俺は?」

「は?」

俺の問いかけに、奏葉が怪訝そうな顔をする。


「俺はどうしたらいいんだよ。俺は、そわがいてくれないと『幸せ』だって思えない。俺が前言ったこと、もう忘れた?」

「え?」

俺は目を見開いて首を傾げる奏葉を引き寄せると、彼女をぎゅっと力いっぱい抱きしめた。


「好きだ」

奏葉の耳元でささやくと、彼女が俺の腕の中できゅっと身体を強張らせた。

数秒ほど呆然と俺の腕に抱きしめられたままでいた奏葉は、すぐにはっとして俺から逃れるようと身を捩る。


「やめてよ。言ったでしょ?好きなんて、そんな言葉信じないって」

そう言って俺を見上げる奏葉の瞳も声も、どこか自信なさ気に揺れていて……

だから俺は腕に抱きしめたまま、彼女のことを離さなかった。