けれど、奏葉は立ち止まることも振り返ることもしなかった。


「奏葉はどうしたんだ?」

奏葉を追って二階から降りてきた春陽に、祐吾さんが心配そうな声で尋ねる。


「パパ、ごめん。あたし、パパとおかあさんが籍入れてなかったことお姉ちゃんに話しちゃった。話せば出て行くのをやめるかと思って……だけど」

春陽が今にも泣き出しそうに表情を歪める。


「いいんだ春陽。とりあえず、今は奏葉を……」


祐吾さんは春陽の頭を優しく撫でると靴を履いた。


「奏葉を捜してくる」

「祐吾さん」

急いで玄関を飛び出そうとする祐吾さんを、カオルさんが引き止める。


「待って、靴がちぐはぐ。探している間に転ぶわよ」

カオルさんに言われて足元を見ると、祐吾さんは右に通勤用の靴を、左に玄関に常備してあったサンダルを履いていた。


「あ、あぁ……」

祐吾さんは頭を掻くと、焦って震える足で履き替える。

カオルさんがそんな祐吾さんを不安気な瞳で見つめていた。