私はゆるゆると首を振りながら数歩後ろに下がると、踵を返して春陽に背を向けた。 「お姉ちゃん?」 春陽の声が、慌てて私を呼び止める。 でも私はもう止まらなかった。 ボストンバッグを握り締め、階段を一気に勢いよく駆け下りる。 玄関に置いてあった靴に、乱暴に足を突っ込むとそのまま後ろを振り返ることなく家を飛び出した。 「そわ!?」 玄関のドアが閉じる瞬間。 遠くから真宏が呼ぶ声が聞こえたような気がした――……