皮肉のこもった笑みを浮かべる私を見て、春陽が目を伏せて俯く。

私はこちらに向けられた春陽の頭のてっぺんをじっと見つめると、冷たい声で言った。


「じゃぁね」

部屋を出る前に、別れの言葉を告げる。


「待ってお姉ちゃん!」

けれどそのとき、春陽が勢いよく顔をあげて、出て行こうとする私を呼び止めた。


「あのね、お姉ちゃん。パパには口止めされてたんだけど……」

そう言って、春陽が困ったように視線をうろうろと動かす。


「パパとおかあさん、籍入れてないよ」


え――…?

私は出て行く足を止めると、もう一度春陽を振り返った。

彼女の口にした言葉の意味がわからず、大きく目を瞠る。


「それ、何の話……?」

掠れた声でつぶやくと、春陽がもう一度さっきの言葉を繰り返した。


「パパとおかあさん、籍入れてない」


どういうこと――?