「お姉ちゃん、何してるの?」
春陽は荷造りをしている私を呆然とした顔で見下ろした。
春陽と言葉を交わすのは、彼女の口から留学をするという話を聞いた日以来だった。
「何って、見たらわかるでしょ?」
私は荷造りする手を動かしながら、素っ気なく言葉を返す。
「まさか、パパに言ったこと本気なの?家から出て行く気?」
春陽が疑わし気に尋ねてくる。
「本気に決まってるでしょ」
最後に膨らんだボストンバッグに財布とスマホをいれる。
パンパンになったバッグのファスナーは完全には閉まらなくて、仕方ないから中途半端に半分開けたままにした。
バッグを持って立ち上がろうとした私に、春陽が慌てて歩み寄ってくる。
「お姉ちゃん、今何時だかわかってる?こんな時間に家を出て、一体どこに行く気よ」
春陽が言う通り、時計は既に夜の11時を回ろうとしていた。
「別に、春陽には関係ないよ」
春陽の肩を押しのけて、ドアの方へ歩き出す。