部屋に駆け込んだ私は、クローゼットを開けると、持っている中で一番大きい旅行用のボストンバッグを引っ張り出した。

そのバッグの口を大きく開いて、目に付いた大切そうなものを手当たり次第詰めていく。

父に殴られた頬は、時間が経つほどに痛みを増していく。

父が怒りに任せて何度か私に手を振り上げたことがあったが、本気で私を殴ったことはなかった。


私が言い放った言葉は、それだけ父の心を傷つけたのか、それとも図星だったのか――……


私は荷造りする手を止めると、腫れた頬を手のひらでそっと撫でた。


いずれにしろ、出て行くのは今だと思った。

今の状況で、高校を卒業したら……なんて悠長なことは言っていられない。

再び荷造りに取り掛かり始めたとき、ノックなしに部屋の扉が開いた。


父が気付いて引止めに来たのだろうか……

心のどこかでそれを期待し、恐る恐る振り返る。

だが、振り返ったその先に立っていたのは春陽だった。