「奏葉ちゃん、大丈夫?」
あの女が気遣うように私の頬に手を伸ばす。
どうして、手を差し伸べてくるのはいつもあなたなの……?
本気で、私のことを心配だと思ってる――……?
心配そうに私を見つめるあの女を睨む。
いい母親の役を演じてるだけなんじゃないの――……?
私は差し伸べられた彼女の手を、頬を押さえていた手の平で叩き落とした。
「奏葉!」
頭上から、父の低い声がする。
その声を聞くと、訳もなく目に涙が浮かんだ。
私は唇をぎゅっと噛んで滲み出しそうになる涙を涙腺の奥に押し込めると、父とあの女の傍をすり抜けて二階へと続く階段に足を掛けた。
父は、すり抜けていく私を今度は止めようとはしなかった。
走って階段を駆け上がった私は、自分の部屋に入ると乱暴にそのドアを閉めた。