知らぬ間に綺麗に片付けられてしまったこの部屋に、ママの面影はどこにも残っていなかった。

どこから持ってきたのかわからない、小さな机と洋服箪笥。

それから小さな本棚。

そのどれもが、シンプルであの女が選びそうなものだ。


ママは可愛いものが好きで、棚や壁に物を飾るのが好きだった。

そのセンスも良くて、私はママが飾るその小物達が大好きだった。


部屋を入って右手にある窓に目を向けると、そのすぐ下にベッドがあった。

そのベッドは枕カバーやシーツこそ新しいものに取り替えられていたが、ママが使っていたものだ。

そして窓のすぐ下というベッドの位置は、ママがいたときと同じだった。


「ママ……」

私はベッドに近づくとそこに座って手をついた。

全て入れ替えられてしまったこの部屋の中で、このベッドとその位置だけがママの名残だ。


私はそのままベッドに寝転ぶと、うつぶせになって目を閉じた。

干した布団の匂いと、真新しいシーツの匂いが混ざり合って鼻をつく。


「ママ……」


この場所が見ず知らずの他人の……
     
しかもあの女の親戚に使われると思うと、悔しくて仕方なかった。