「奏葉はすごいね」
ママがそう言って笑うから……
だから私は頑張って、病気で入院したきりのママを少しでも励ましたかった。
結局、私が高校に入ったことを知らずにママは逝ってしまったけれど……
空で見守ってくれるママのために、私はちゃんと約束を守ったんだ。
「だけどママはもういないから、大学に行ったって意味がない。ママのいないこの家にいつまでも居続けたって意味がない。だから出て行くの」
「奏葉……」
父が低い声で私を呼ぶ。
厳しい表情をしたその瞳の中に、深い悲しみのような光を宿しながら。
私は父の瞳に宿る悲しみに気付きながらも、言葉を続けた。
「私はどうしたって、あの女のことを母親だなんて思えない」
私がそう言った瞬間、リビングのドアから様子を窺っているあの女が悲しそうに目を伏せた。
あの女の悲しそうな顔を見ていると、怒りが湧きあがってきて、父に放つ言葉達に憎しみがこもった。