「私、高校卒業したらこの家を出て行くつもりだから」
そう言ったとき、怒りを顕わにして目の前に立っていた父の顔が翳る。
だけどそれは本当に、ほんの一瞬だけだった。
「奏葉、何を言ってるんだ?」
ほんの一瞬だけ翳った父の顔は、すぐに怒りの混ざった厳しい表情になる。
放課後に話をした担任が何を言ったのかはわからないが、私は家に帰ってくるなり、玄関に仁王立ちになった父に行く手を阻まれていた。
父の向こうに見えるリビングのドアから、あの女と春陽、それから真宏が玄関で向き合っている私と父の様子を窺っている。
その三人はそろいも揃ってどこか怯えた表情をしていて、それが何だか可笑しかった。
笑むように唇の片端をきゅっと持ち上げると、私を見下ろす父の表情がますます厳しいものになる。