玄関の方が、さっきからざわついていた。
あの女(ヒト)の親戚とその息子が到着したらしい。
下から聞こえてくる楽しげでのん気な笑い声に、私は小さく舌打ちする。
あの女の親戚が来たら挨拶に降りてくるよう父に言われていたが、私はそれを無視した。
だが、父は無理やり私を呼びにきたりしない。
私があの女の親戚の前で反抗する姿を、親戚やその息子に見せたくないからだ。
父がそのつもりなら、敢えて出て行ってあの場を壊してやろうか……
そう思ったが、自分のその考えがあまりにバカらしくて私は小さく首を横に振った。
今日、ママの部屋がママの部屋でなくなる。
私は自分の部屋から出ると、閉ざされたままの隣室のドアをそっと見つめた。
「ママ……」
ドアの取っ手に手を掛けると、それを回してゆっくりと開く。
ここは、ママが使っていた部屋だった。
病院から一時帰宅したとき、ママはいつもこの部屋に置いてあったふかふかの座布団を敷いた椅子に座って本を読んでいた。
窓から舞い込む風がママのふわふわした癖のある髪を揺らして、それを横で眺めているのが好きだった。
もっともそれはママがまだ比較的元気だったときの話で、亡くなる直前は薬の副作用で大好きだったママのふわふわとした柔らかい癖毛は抜け落ちてしまっていた。