「先生、もういいですか?帰りたいんですけど」
わざとらしく壁時計を見上げると、立ち上がる。
今の私をどれだけ説得しても無駄だと思ったのか、担任が小さくため息をついた。
「あ、あぁ。でも、もし気が変わったらすぐに言うんだぞ?」
「ありがとうございます」
私は薄く愛想笑いを浮かべた。
「でも、希望が変わることはきっとないと思います」
私はきっぱりとそう言うと、進路指導室を出た。
廊下に出ると、向こうから拓馬と並んで歩いてくる真宏が見えた。
一瞬だけ目が合い、真宏が何か言いたそうに唇を動かす。
私は彼から視線をそらすと、背を向けて歩き出した。
真宏は立ち去る私に声を掛けてこなかったし、いつかみたいに追いかけてくることもなかった。