「うん、絶対可愛い!あたしもおかあさんみたいに『まぁ君』って呼んでいい?」

春陽が上目遣いに俺を見あげる。


「え、あぁ。別に構わないけど……」

戸惑い気味にそう答えると、春陽は嬉しそうに笑ってはしゃいだ声を出した。


「わぁい!やった!あたし、お兄ちゃんほしかったの。これからしばらくよろしくね、まぁ君」

「あぁ、よろしく……」

俺は若干引きつりそうになるのを堪えながら、必死で笑顔を作った。


初対面なのに、春陽は人に対して物怖じしなさ過ぎる。

彼女がカオルさんと良好な関係を築けている理由がよくわかった。

春陽はきっと、誰とでも上手くやれる。


「まぁ君の部屋はここだよ」

春陽は二階へ向かう階段を登りながら、「彼女はいるのか」とか「好きなタイプは」とか、初対面ではなかなか聞きにくい質問を俺にぶつけ続け、階段を登りきってから一番奥の部屋で足を止めた。

やっと春陽から解放されると思い、安堵の息をつく。


「あれ、ドア開いてる」

ところが、春陽は部屋の前で不思議そうに首を傾げた。


「閉めてあったんだけどなぁ」

そう言って部屋の中に入っていく春陽。

俺は彼女に続いて部屋に入った。