奏葉の言葉を、俺はすぐに否定できなかった。
奏葉の前では、どんな否定の言葉も薄っぺらいただの戯れ言になってしまいそうで。
否定するための言葉が思いつかなかった。
母親を想う奏葉の気持ちは深いから。
母親が死んですぐに薫さんと結婚した祐吾さんを許せない奏葉の気持ちは強いから。
そして俺はそのことを、彼女の傍で身に染みて感じてきたから。
「でも俺は……」
でも俺は、奏葉の言葉を何とかして否定したかった。
好きという感情は移り変わるものかもしれない。
だけど、俺が奏葉に対して感じる今のこの気持ちは本物だと。
何とかして伝えたかった。
でなければ、奏葉はいつまでたっても救われない。
この先もずっと、死んだ母親に心を囚われたままだ。
「でも俺は、簡単な気持ちでそわへの想いを口にしたわけじゃない」
俺がそう言うと、奏葉はやっぱり冷めた目で俺を数秒見つめた。
奏葉は俺を嫌ってる。
そういう相手を好きになって、気持ちを伝えるためにはどれくらいの勇気がいるか……
簡単な気持ちなんかじゃない。