奏葉はきつい口調でそう言うと、一度強く睨みをきかせて俺から顔を反らした。

そして、驚いている俺を置いて早足で歩き出す。


「おい、そわ!」

俺は一人で先を進もうとする奏葉を慌てて追いかけた。

前を急ぐ奏葉の腕を夢中で掴む。


「ちょっと待てよ。お前が言ってる意味、全然わかんないんだけど」

奏葉が振り返って俺を見上げる。

少し吊りあがった彼女の目は、俺のことを鋭く睨んでいた。


「俺、茉那とは付き合ってない」

「じゃぁ、茉那が嘘ついたっていうの?」

奏葉が俺を睨みながら強い口調で言い返す。


「安心して。茉那にはあんたがあたしにキスしたことは言ってないから。ついでにこう言っておいてあげようか?高野 真宏は私が世界で一番嫌いな人間だって」


奏葉の言葉が俺の胸に突き刺さり、鈍く痛む。

哀しい気持ちで奏葉を見下ろす。


そのとき俺は、自分を睨む奏葉の瞳がほんの少し潤んでいることに気付いてはっとした。