「そわ?」
無言で真宏の唇を見つめていると、彼に名前を呼ばれた。
はっとして視線を少し上げると、真宏が不思議そうに首を傾ける。
「何ぼーっとしてんの?」
「べ、別に」
「ふぅーん」
真宏は私をしばらくじっと見つめたあと、廊下の方へと数歩下がった。
「まぁいいけど。とにかくメシだから、さっさと着替えて降りて来いよ?」
「あぁ、うん……」
返事をしながら頷くと、真宏がにっこりと笑って部屋のドアを閉めた。
真宏の笑顔がドアの向こうへとゆっくり消えていく。
閉ざされたドアを見つめながら、私は心に底知れない淋しさを感じた。
その淋しさは、私が未だかつて感じたことのない類のものだった。
それは喪失感に少し似ていたけれど、ママを亡くしたときとは全く違っていた。