「目を通してみて気になるところがあったらいつでも言ってよ」
蒔田は私にそう言ったあと、隣に立っている茉那に視線を向けた。
「帰るところだったのにごめんね、都築さん」
蒔田は茉那にもそう声を掛けると、私たちに手を振って先に教室を出て行った。
「ごめん、茉那。帰ろうか」
私が声を掛けると、茉那は元気のない様子で薄く微笑んだ。
話したいことがあると言ってきたわりに、茉那は教室を出てからずっと黙っていた。
俯いて歩きながら、時々思いつめたような表情で顔を上げる。
私は茉那の隣に並んで歩きながら、彼女が話し出すのをじっと待っていた。
校門を出て駅に向かう途中にある公園の前を通りかかった頃、ようやく茉那が口を開いた。
「奏葉、最近委員長と仲がいいんだね。さっき、何を渡されてたの?」
茉那が私の顔を見上げる。
不自然な茉那の笑顔が私の瞳に映る。
笑いたい気分ではないのに無理やり顔に笑顔を貼り付けている。
今の茉那の笑顔はそんなふうに見えた。