「あ、いいのよ。春陽ちゃん」

歩き出そうとした春陽をカオルさんが静止する。


「呼んでも、奏葉(ソワ)ちゃん、きっと来ないわ」

カオルさんが、もう一人いるらしい誰かの名前を呼んで悲しそうな顔をした。

そんなカオルさんを見て、祐吾さんがため息をつく。

              
「うちにはもう一人娘がいるんだ。春陽の姉で、真宏くんと同い年だよ」

祐吾さんが言う。


「そうですか。じゃぁ、会ったときに挨拶しておきます」

俺は浮かない表情をする祐吾さんに笑顔を向けた。

春陽も立ち上がったまま困った表情でカオルさんを見ている。


まだ解決していなかったんだ……


三人の表情で、俺にはそのことが分かった。


カオルさんのことを悲しませていたもう一人の連れ子は、今もカオルさんのことを苦しめている。

そして、カオルさんだけでなく祐吾さんや春陽のことまでも苦しめているようだった。


どんなヤツなんだ。


心の中で毒づく。


きっと、どうしようもなく最低なヤツに違いない。