「春陽」
呼びかけても中から返答はない。
部屋を出て行く前、睨むように私を見つめていた春陽の表情を思い出してため息をついた。
「春陽」
もう一度外から呼びかけてみる。
だがやはり返事がないので、私は勝手に部屋のドアを開けた。
「春陽、入るよ」
ドアを開けると、春陽はこちらに背を向けてベッドに横になっていた。
私が声を掛けても、ぴくりとも反応を示さない。
私は小さく息をつくと、春陽に近づいて背を向けている彼女の肩を軽く揺すった。
「春陽。話、聞いてくれる?」
すると春陽は、首だけを起こして私を見上げた。
私を見上げる彼女の表情は、どう見ても怒っている。
「嘘つき」
春陽が私を睨んでつぶやく。
「え?」
「興味ないって言ってたくせに!」
春陽はそう言い放つと、また私に背を向けた。
「春陽、違うの。私とあいつは何の関係もないんだって……」
「じゃぁ、どうしてキスしてたのよ」
春陽が背を向けたまま低い声で言った。