真宏の手を振り払った私は、部屋のドアを閉めると肩で小さく息をついた。
指先で唇に触れる。
成り行きで何度か真宏に抱きしめられたことはあったけれど、キスをされたのは初めてで……
というよりも、これまで誰かと付き合ったりしたことのない私は、キス自体が初めてで……
驚いた。
真宏の唇が触れたときに感じた、柔らかくて熱い温度。
どうして真宏は突然あんなことを――…
驚いてただ抵抗することしかできなかったけど、あの温度だけはなぜかまだ鮮明に思い出せる。
思い出して私は、慌てて大きく首を振った。
今はそんなことを思い出している場合じゃない。
春陽の誤解を解かなければ。
私は春陽の部屋の前に立つと、ドアをノックしながら中にいるはずの彼女に呼びかけた。